MSG90は、1987年にドイツのヘッケラー&コッホ社(H&K社)が開発したセミオートマチックスナイパーライフル(半自動式狙撃銃)で、アメリカのデルタフォースを初めとした各国の特殊部隊でも採用実績がある。
先に開発した、高性能だが高価であったセミオートマチックライフルである「PSG-1」の欠点を改良するとともに、価格も抑えた廉価版となっている。
MSG90の開発経緯|高性能狙撃銃「PSG-1」の問題点とは?
MSG90の開発は、H&K社の前モデルであるPSG-1の問題点を解決するために行われた。PSG-1は世界最高水準の狙撃銃として知られていた一方、いくつかの重大な欠点を抱えていた。 主な問題点は以下の通りだ。
- 1丁あたり約7000ドルと非常に高価
- 長距離の運搬が想定外で約8kgと非常に重い
- 構造や内部機構が繊細で過酷な軍事作戦での使用に適していなかった。
これらの欠点を克服するため、H&K社はMSG90の開発に着手し、以下の改良が施された。
- 銃身の短縮:全長を1128mmとし、PSG-1より約100mm短くした。
- フレームの変更:G3と同様のフレームを採用し、堅牢性を向上させた。
- 部品の簡素化:部品点数を削減し、コストダウンと軽量化を実現した。
- スコープの改良:固定式から取り外し可能なタイプに変更し、暗視スコープなどの装着を可能にした。
これらの改良により、MSG90はPSG-1の高い命中精度と耐久性を維持しつつ、軽量化(6.29kg、PSG-1より約2kg軽量)と低コスト化を実現。また、セミオートマティック方式を採用しながらも高い命中精度を保持し、軍用狙撃銃として高い完成度を達成した。
なお、開発国のドイツでは、すでにPSG-1とG3SG/1が配備されていたため、MSG90は軍に採用されなかった。一方でアメリカ軍に採用されて特殊部隊デルタフォースで使用されたほか、フランスなどの先進国から、メキシコやマレーシアといった新興国まで様々な国で採用されるなど、輸出に関しては一定の成功を収めている。
MSG90の性能&特徴|PSG-1とも比較して解説
MSG90の基本性能 | |
銃身長 | 600mm |
重量 | 6,400g |
口径 | 7.62mm |
使用弾薬 | 7.62mm×51 NATO弾を使用 |
有効射程 | 700m(1000mという説もあり) |
装弾数 | 5発、10発、20発のマガジンに対応 |
MSG90は、PSG-1と同様の高精度トリガーシステムを採用しており、優れた命中精度を実現している。さらに、銃身長を650mmから600mmに短縮し、全長を1128mmとすることで、PSG-1より約100mm短く、より取り回しやすい設計となっている。
重量面では、6.29kgと8.1kgのPSG-1より約2kg軽量化されており、長時間の運搬や機動性を要する場面での使用にも適するよう改善されている。この軽量化は、フレームをG3と同様のものを使用し、各部品の簡素化と部品点数の削減によって実現した。
スコープに関しては、PSG-1の固定式から取り外し可能な方式に変更された。これにより、通常のスコープを外して暗視スコープを装着するなど、状況に応じた柔軟な運用が可能となった。
MSG90は、PSG-1の優れた精度を維持しつつ、軽量化、コスト削減、そして実戦での使用を考慮した設計変更により、軍用狙撃銃としての完成度を高めた製品と言える。これらの特徴により、過酷な環境下での使用に適した高性能狙撃銃として評価されている。
MSG90の採用国|使用している軍隊一覧
採用国 | 使用部隊 |
アメリカ | デルタフォースネイビーシールズグリーンベレー |
メキシコ | 陸軍 |
ネパール | 陸軍 |
マレーシア | マレーシア陸軍テロ対策特殊部隊(GGK)マレーシア海軍海上テロ対策特殊部隊(PASKAL) |
インドネシア | インドネシア陸軍特殊作戦部隊(Kopassus)インドネシア海軍戦闘水泳隊員部隊(KOPASKA) |
ペルー | 警察の特殊部隊 |
韓国 | 大韓民国海軍特殊戦旅団(UDT/SEAL) |
フランス | フランス陸軍第1海兵歩兵落下傘連隊 |
ノルウェー | 陸軍 海軍 |
MSG90は特に高度な狙撃能力を必要とする対テロ作戦や特殊作戦を遂行する特殊部隊での採用が目立つ。これは、その高い精度と信頼性、そして軍用環境での使用に適した設計が評価されているためだ。有名な例では、アメリカのデルタフォースが湾岸戦争で実戦投入した実績がある(なお、この経験を基に、アメリカ軍の要請でMSG90A1が開発されました)。
一方で、開発国であるドイツでは、すでにPSG-1とG3SG/1が配備されていたため、MSG90は軍に採用されなかった。これは、新しい武器システムの導入にはコストと訓練が必要であり、既存のシステムで十分な性能が得られる場合、必ずしも最新モデルを採用するとは限らないという兵器調達の現実を示していると言えるだろう。
MSG90の派生モデル|MSG90A1とMSG90A2
湾岸戦争にMSG90を投入したアメリカ軍の要請を受け、H&K社は後続モデルとしてMSG90A1とMSG90A2を開発した。これらの派生モデルは、元のMSG90の基本設計を踏襲しつつ、特定の要求に応じて改良が加えられている。
MSG90A1
MSG90A1は、1997年にアメリカ軍の要請に応じて開発された。主な特徴として、バックアップ用アイアンサイト(H&K G8タイプ)を装備するとともに、当初装備されていなかった、マズルフラッシュを低減させるフラッシュハイダーを追加していることがあげられる。
これらの改良により、MSG90A1は光学機器に不具合が生じた際のバックアップ機能を強化し、射撃時のまずるフラッシュを抑制することで狙撃手の位置が敵に察知されにくくなった。
MSG90A2
MSG90A2については、具体的な開発年は不明なものの、MSG90A1をさらに改良したモデルとされている。主な変更点は二脚(バイポッド)の変更で、 この改良により、より安定した射撃姿勢を取ることが可能となり、長距離射撃時の精度向上に寄与したとされる。
MSG90とその派生モデルは、現代の軍用狙撃銃の発展に大きく貢献し、高い精度と実用性を兼ね備えた狙撃銃の基準を確立したと言えるだろう。これらのモデルは、その後の狙撃銃開発にも影響を与え、現代の特殊部隊や軍隊で使用される狙撃銃の設計に重要な役割を果たしている。
MSG90が欲しい方へ|エアガン版MSG90のリリース情報
H&K MSG90のエアガンは、香港のエアソフトメーカー、クラッシック・アーミー(Classic Army)が、MSG-90をモデルとした電動エアガンのリリースを発表している。この製品は日本市場向けに特化しているとされていますが、価格や発売日などの具体的な情報は現時点で不明だ。